第001話 東京女子代表編(前編)


00 始めにおことわり

 この物語はフィクションです。
 実際にある団体等とは別の物語です。



01 かつての覇者、東京女子と分校からの転校生

 かつて、全ての学校を制覇し、首都高(しゅとこう)と呼ばれた学校があった…
 東京女子(とうきょうじょし)…
 かつては首都高と呼ばれた学校…
 そこから物語は始まる…
 東京女子は23組からなる本校と市町村組からなる分校が存在した。

「はい、お前達、静かにしろ。今から分校からの転入生を紹介する、入れ」
ハイスクール・マザーズ01話01  教官が板橋組の生徒達を大人しくさせる。
「…失礼します」
 教官に促されるように一人の女生徒が入ってきた。
 メガネをかけている…。
「名前を名乗れ」
「分校の東久留米組からやって来ました亀井 百合萌(かめい ゆりも)です。よろしくお願いします…」
 ザワッ
 生徒達がざわつく。
 噂が確かなら転入生は分校を制覇して来たという事になっているからだ。
 全国大会の東京女子の代表と言えば本校から選ばれるのが通例となっているが、ここ何年かの代表のふがいなさに憤慨し、分校から代表をと分校の方が勢いづいて来ていた。
 そこを制覇してやってきたというと相当な手練れという事になるからだ。
 とは言え、板橋組の生徒達も本校としての意地がある。
 分校から来た生徒においそれと代表の座を譲るつもりなどなかった。
 全国大会の晴れ舞台に東京女子代表として出るのは自分達板橋組の生徒だと思っている生徒も何人かいた。
 転入生という事は板橋組の生徒という事になるのだが、それでも、元分校出身の生徒に板橋組の代表を譲るつもりなど誰も無かった。
「はじめまして、転校生さん。あたしはこの板橋組の第五席、飯島 洋子(いいじま ようこ)、よろしくね」
ハイスクール・マザーズ01話02 「第五席…ってことは貴女の上に4人いるって事ですか?」
「…そういう事になるわね…そして、貴女の席は末席…一番後ろって事になるわね」
「かまいませんよ。私は別に東京代表になんか興味ないですから…」
「…言うわね…じゃあ、パンでも買ってきてもらおうかしら?今は授業中だけどね。怒られる覚悟で行ってらっしゃい」
「…お断りします。今は授業中ですので…行きたければご自分でどうぞ…」
「生意気ね…力づくだって良いのよ…」
「どうぞ…出来るものならね…」
「この…」
 洋子は殴りにかかろうとした。
「やめなさい、洋子、貴女が悪い、引きなさい…」
 それを一人の少女が止めた。
「か、可憐(かれん)…解ったよ、引くわよ…」
 可憐と呼ばれた少女の言うことを洋子は素直に聞いた。
 その事からも可憐は洋子よりも上だという事がわかる。
「…一応、お礼を言っておいた方がいいのかしら…」
「…別に良いわ…助かったのは貴女ではなく洋子の方だろうから…私は藤堂 可憐(とうどう かれん)…序列好きの洋子風に言えば第二席という事になるかしら…主席はあそこですましているあの子、河原 千亜紀(かわはら ちあき)って事になるかしら…」
「…よろしく…」
「…こちらこそ…」
 可憐に紹介され、百合萌は千亜紀と軽く挨拶をする。
「それから、あっちの窓際で寝ているのが第三席、酒井 清美(さかい きよみ)とその隣が第四席、生方 尚美(うぶかた なおみ)ね…第六席は…」
 可憐は次々と生徒を紹介する。
 一度に名前など覚えられなかった。
 が、トップの千亜紀の顔と名前は一致させた。
 おそらく千亜紀は東京女子本校の中でも屈指の実力を持っているのだろう…
 百合萌が東京女子の代表になる前にまず、板橋組の代表になる必要がある…
 板橋組の代表になるためには千亜紀に勝つしかない…。
 口では東京女子の代表には興味がないと言いつつも、百合萌は代表になるために打倒千亜紀を誓った。


02 板橋組の四天王と第五席


 しばらく板橋組で生活してみて解ったこと。
 それは第五席以下の生徒と第四席以上の生徒との実力には大きな隔たりがあるという事だった。
 第四席 生方 尚美
 第三席 酒井 清美
 第二席 藤堂 可憐
 第一席 河原 千亜紀
 この四人の実力は本物で板橋組では四天王と呼ばれていた。
 第五席の飯島 洋子には勝てる自信はあるが、四天王の実力は未知数だった。
 どうやらこの四人、代表戦には出てでておらず、板橋組の代表は第五席の洋子が出ているようだった。
 そのため、23組中成績は最下位…
 これが板橋組の成績だった。
 他の組は第五席が代表に出て勝てる程甘くはないという事だ。
 とりあえず、第五席の洋子を倒せば、板橋組の代表になれる可能性は高い…
 可能性は確かに高いのだが、それでは、百合萌としては面白くない…
 どうせなら主席として代表戦に出たいというのが正直な気持ちだった。
 誰も五番目というレッテルを貼られて出場したくはない…
 まずはちょろちょろと突っかかってくる第五席、洋子を倒して第五席になることから…
 百合萌はそう判断した。
 まずは、喧嘩っ早い洋子を挑発して…と考えた。
 が、挑発するまでもなく、洋子は突っかかってきた。
「ちょっと、新入り、あんたとあたし、どっちが上か白黒はっきりさせようじゃないの!」
 洋子は可憐に自分が百合萌より実力が下だと評価された事が面白くないのだ。
「…私はどちらでも良いけど…あなたがそれを望むならしても良いわ…それで、どうするの?」
「簡単よ、東京女子代表戦の公式ルールに則って勝負するのよ。この学校にとってそれが価値を決める一番の事だからね」
「…わかったわ。それで、私が勝ったら何かあるの?」
「勝ったらあたしの第五席の座をあげるわ。だけど、負けたらルールに則って制服を脱いでもらう…目障りなんだよね…それ、分校の制服でしょ?ここは板橋組よ。ちゃんと板橋組の制服を着てもらわないとねぇ」
「良いわ。勝とうが負けようが板橋組の制服を着るわ。だけど、勝ったら貴女の第五席の座をもらう…それで良いわね」
「それじゃあ、勝負にならないじゃないの、負けたら…そうね…裸で授業を受けてもらおうかしら…」
「良いわ、それでも…どうせ、私が勝つし…」
「生意気、けちょんけちょんにしてやるわ」
「…お手柔らかに」
「ふん、誰が」
 百合萌と洋子の間に激しい火花が散る。
 こうして百合萌VS洋子の第五席を賭けた勝負が行われる事となった。


03 制服バトル


 生徒達の意地とプライドを賭けた戦いは制服バトルと呼ばれ、勝った生徒は負けた生徒から制服を奪えるというものだった。
 負けた生徒はジャージでしばらく過ごさないといけないという屈辱を味わうというのが本来のルールである。
 だが、百合萌が負けると裸で過ごさねばならない。
 恥ずかしさと屈辱はジャージの比ではない。
 種目は10000種類ある項目からランダムに七つ選出される。
 その七つの種目を先に4勝した方が勝ちというものである。
 種目は当然、生徒によって得手不得手があるため、運というのも必要な要素だった。
「ふざけんじゃないよ、やり直せ!」
「わ、わかったわよ、貴女がいいなら…」
 何やら洋子側でもめているようだった。
ハイスクールマザーズ01話03 「…どうしたの?始めないの?」
「…やるわよ、待ってなさい」

 第一種目は百人一首だった。
「あーあ、本当は綱引きだったのに…」
 外野の声が百合萌に聞こえた。
 百合萌はさっきのもめ事の状況を理解した。
 勝負は百合萌の圧勝だった。
 まずは、百合萌がポイントを一つ先取した。
「くそっくそっ…今度こそ…」
「………」
 悔しがる洋子を黙って百合萌は見ていた。

 第二種目は砲丸投げだった。
 これは力自慢の洋子がポイントを取った。
 これで、得点は1対1のイーブンとなった。

 第三種目はローラースケートでのスピード勝負。
 先に校庭を30周した方が勝ちだった。
 これは洋子に5周以上の大差でゴールし、百合萌がポイントを取り、2勝1敗とした。

 第四種目は料理対決。
 どちらが美味しいクッキーを焼けるかを生徒10人に評価してもらい判定をする。
 百合萌は自信があったが、アウェー状態のためか洋子が勝ち引き分けに戻した。
 何故か勝った洋子は不機嫌だった。

 第五種目は漢字の書き取り対決。
 100問の問題でより高い点数を取った方が勝ちだ。
 これは百合萌が取りリーチとなった。
 洋子は次に負ければ負けが決定してしまう。
 もう負けられない状態となった。

 第六種目は跳び箱。
 17段と洋子も善戦したが、百合萌は24段という圧倒的な差で勝った。
 これにより第七種目を待たずして、洋子の負けは決定した。

「くそっくそっ負けた…」
 涙を流して悔しがる洋子。
 そこへ百合萌が近づいて来た。
「フェアプレイ精神…立派だったわ」
「な、何のことよ」
「制服バトルに対して、正々堂々と勝負をしてきた。そこは尊敬する」
「な、何を言ってるんだか…」
 百合萌は気付いていた。
 制服バトルの時、クラスメイトは洋子が勝ちやすいように洋子の得意なパワー系の勝負を多く混ぜようとした。
 だが、洋子はそれを良しとはせず、やり直しをさせたのだ。
 それに気付いた百合萌も礼を尽くして全力で洋子と戦ったのだ。
 始めは適当にギリギリで勝とうと思っていたのだが、それはかえって洋子に失礼だと重い、力いっぱいかけて洋子と対戦したのだ。
「素晴らしいファイトだったわ。貴女とはまた、やりたいわね」
「ふ…負けたわよ。約束通り第五席の座はあんたのものよ。そして!」
 洋子はバッと制服を脱ぎ捨て裸となった。
 百合萌に請求して自分が脱がないのは納得がいかないとして脱いだのだ。
「…貴女は素晴らしいファイターよ。ほんと、尊敬する」
 そっとバスタオルをかけて百合萌は優しく微笑む。
 雨降って地固まる…
 百合萌と洋子の間に友情が芽生えたのだった。


04 代表戦


「おーい、百合萌〜あたしは今日の勝負にこのプリンを賭けるよ。あんたは何賭ける?」
「そうね…じゃあ私はこのマンゴーゼリーを賭けるわ」
「今日こそ負けないわ」
「今日も返り討ちにしてあげるわ」
 この前の勝負までが嘘の様に百合萌と洋子は仲良くなった。
 洋子に味方した生徒達も百合萌に詫びを入れ、和解した。
 クラスメイトの誰も、百合萌が序列第五席という事に依存は無い。
 クラスは一つになっていた。
「くっそー、今日も負けた」
「はいはい、明日も頑張ってね。実力…上がって来ていると思うよ」
「ほんとか?やったー」
「ふふっ」
「あ、そうだ、代表戦、百合萌、あんた、出なよ。あんたになら板橋組の代表を任せても良いと思ってんだ、あたし」
「そう…ね、どうしようかな…」
 百合萌は迷った。
 確かに、今まで序列第五席の洋子が代表戦に出場していたのだから、新しく第五席となった百合萌が出てもおかしくはない。
 ただ、まだ、クラスで一番にはなっていない。
 まだ、上に4人も居る…
 その事が百合萌の代表入りの決心を鈍らせていた。
 迷っていると…
「その話…ちょっと待ってくれないかな?」
「私達に勝ったら…という訳にはいかないかしら?」
 という声がした。
 声のした方向を見ると、
 第三席 酒井 清美と第四席 生方 尚美の姿が見えた。
 仲良し第三第四席コンビだ。
「君にちょっと興味が湧いたんだ。ちょっと腕試しがしてみたい。挨拶が遅れたね。僕は酒井 清美、一応、クラスでは三番目って事になっているよ」
「私は生方 尚美、bSよ」
「あんたたち、代表戦に興味がないんじゃ…」
「そうだね。今でも無いよ。だけど、それだと、百合萌君と真剣に戦えないからさ」
「私と清美に勝てたら晴れて代表ってことじゃだめかしら?」
「…面白いわね。乗ったわ」
「そう、こなくっちゃ。ありがと、百合萌君」
「面白くなりそうね百合萌さん」
「駄目だって、百合萌、あの二人の実力は私とは段違いなんだからさ。勝てないって…」
「そんなのやって見なくちゃわかんないわ。友達になったでしょ、洋子。私を信じて」
「う、うん…わ、わかった…でもさ…」
「必ず勝つわ」
「………」
 こうして、板橋組の代表を賭けて、百合萌対尚美、及び清美の制服バトルが執り行われることになった。
 

05 第四席の実力


 こうして、まずは第四席、生方 尚美と百合萌は勝負する事になった。
 どこか余裕顔の尚美。
ハイスクール・マザーズ01話04 自信顔の百合萌。
 本当に余裕のあるのはどちらなのか…。

 まずは、第一種目。
 計算勝負。
 早く、100問を解いた方が勝ちという勝負だ。
 問題は100問以上選出され、先に100問正解すれば勝ちという勝負だった。
 勝負は106問目で100問正解した百合萌の圧勝。
 尚美は50問もやっていなかった。

 続いて、第二種目。
 パンチングマシーン対決。
 パンチングマシーンでより破壊力を計測された方の勝ちというルールだ。
 百合萌はダッシュと三角跳びを利用したキックで凄い記録を打ち立て勝利した。
 尚美は平凡な記録に終わった。

 第三種目。
 反復横跳び勝負。
 一分間により多く飛んだ方が勝ちという勝負だった。
 これも百合萌が圧倒的大差をつけて勝った。
 これで、三勝。一気に勝利まで王手をかけた。
 だが、あまりにも手応えがなさ過ぎる。
 これでは、まだ、洋子の方が手強かった。
 だが、本番はこれからだった。
「さてと…今までの勝利は貴女の頑張りに対するご褒美、選別よ。勝負はこれからよ」
 尚美が笑った。

 第四種目。
 1000メートル走勝負。
 スピードに自信がある百合萌は大差をつけられ尚美に負けた。
(スピードで私が負けた…?)
 俄には信じられなかった。
 まさか自分がスピードで負けるとは夢にも思っていなかったからだ。

 気を取り直して第五種目。
 歴史問題。
 世界の歴史クイズを答える勝負。
 双方10ポイントずつ割り当てられ正解すると相手のポイントを1ポイント自分のポイントに足せるという勝負だ。
 先に20ポイントを取るか、一時間後に多くのポイントを所有していた方が勝ちというものだった。
 この勝負は尚美があっという間に20ポイント取ってしまい、百合萌は何もさせてもらえなかった。

 続いて、第六種目。
 PK対決。
 相手をゴールキーパーとしてシュートを10本ずつ打ち合い、多くのゴールした方の勝ちという勝負だ。
 これも10対0で尚美が圧勝した。
 あっという間に3対3のイーブンに持ってこられてしまった。
 泣いても笑っても次の勝負で決まる。

 最終種目、第七種目。
 ピアノ早弾き対決。
 ランダムに課題とした3曲を間違わずに先に弾き終わった方の勝ちという勝負だった。
 勝負はギリギリで百合萌の勝ちだった。
「あーん、負けちゃいましたわ。どうも楽器は苦手ですの」
(苦手な種目でこのギリギリの差だとでも言うの…)
 百合萌は戦慄した。
 苦手な種目で得意分野だった百合萌とギリギリの勝負だった事に。
 最初の3種目で尚美がわざと負けていなければ、負けていたのは百合萌だった。
 尚美の底知れない実力をかいま見た気がした。

「負けちゃったね」
「あーん、清美さん、敵を取ってくださいませ」
「僕も負けちゃうかも知れないよ」
 清美、尚美サイドは余裕すら伺える。
 実力の差は明らかだった。


06 第三席の実力


 翌日、続けて、第三席、酒井 清美との制服バトルをする事になった。
ハイスクール・マザーズ01話05 第一種目。
 掃除対決。
 ランダムに選ばれた教室の掃除をしてきて、早くボタンを押した方の勝ちという勝負。
 勝利したのはギリギリで百合萌だった。
 だが、清美は20キロの重りをつけて掃除をしていた。

 第二種目。
 迷路対決。
 先に一冊分の迷路を解いた方が勝ちという勝負。
 これもギリギリで百合萌が取った。
 だが、清美は利き腕ではない左腕で迷路を解いていた。

 第三種目。
 アスレチック対決。
 伏せた札を10枚取り、登り棒を昇る、滑り台を降りる等の10種類の遊具を先に突破して戻って来た方の勝ちという勝負だ。
 これは、後ろ走りや片足でケンケンすると言ったハンデをしたにもかかわらず、清美がギリギリで勝ってしまった。

 第四種目。
 暗記勝負。
 テープに流れている言葉を全て覚えて先に言えた方が勝ちという勝負だ。
 これも清美がダウンロードした音楽を3曲聴いた後でスタートして、ギリギリで勝利をもぎ取った。

 第五種目。
 逆立ち100メートル競走。
 これも、逆立ちの姿勢で、3回腕立て伏せをした後でスタートし、清美が見事な逆転勝利をおさめた。
 これで、百合萌は後が無くなってしまった。
「百合萌…」
 洋子達が心配する。

 第六種目。
 宝探し。
 構内に隠された七つのアイテムを多く見つけた方が勝ち。
 これは百合萌が4つ見つけてポイントを取り戻した。
 だけど、最初、清美は尚美と10分間は雑談をしていた。
 最後の4つ目のアイテムも1分遅かったら見つけていたのは清美の方かも知れなかった。

 そして、最後の第七種目。
 ジェスチャー対決。
 ジェスチャーをして、10分間でパートナーがより多く正解を答えた方が勝ちという勝負。
 これも百合萌、洋子ペアが勝ったが清美、尚美コンビは最初の5分はやはり関係ない雑談をしていて、後半の追い上げは凄かった。
 追い越されるかも知れない…。
 そう思わせる勢いがあった。

 結局、清美にも勝ったが全ての勝負でハンデをつけられていて、とてもじゃないが勝った気はしなかった。
 まざまざと第三席、第四席の実力を思い知らされただけの屈辱の勝利だった。
「…悔しいけど、勝った気がしない…私の負けよ」
 百合萌は負けを認め出した。
「百合萌…」
 洋子が心配する。
「それは、違うよ。僕らはギリギリで勝つつもりだった。それでも勝てなかったのは君に勝負強さがあったからさ。」
「こんなの勝ちとは思えない」
「全国には君より実力が上の者はたくさんいる。今のままでは勝てないよ。もっと実力をつけないとね」
「敵チームに悔しい思いをさせられるより、味方である私達にされた方が良いでしょ。これは私達からの忠告の意味もあるのよ」
「代表戦…頑張ってね。僕らは応援してるよ」
「…ありがとう…」
 清美と尚美は百合萌の傲慢さを正したかったようだった。
 二人の友情に感謝し、ますます、板橋組が好きになる百合萌だった。


07 東京女子代表選抜戦


 クラスの気持ちを一つにした百合萌は板橋組代表として23組同士の戦いによる東京女子代表選抜戦に出ることになった。
 体育館に23種類の制服が並ぶ。
 23組それぞれの組の制服だ。
 この代表戦に勝ち残った1組が今年の東京女子代表の制服となる。

「…あら、見ない顔ね…新人さん?」
 声をかけてきたのは練馬組(ねりまぐみ)の代表、風間 静香(かざま しずか)だ。
ハイスクール・マザーズ01話06 「へぇ…臆病者の千亜紀は今年も出ないって訳?」
 今度は北組(きたぐみ)の代表、森脇 梢(もりわき こずえ)だ。
 彼女は板橋組との交流戦で千亜紀に負けてから何かと板橋組を目の敵にしているのだ。
「ちょっと貴女たち、静かに出来ないの」
 注意してきたのは優勝候補の一角、文京組(ぶんきょうぐみ)の代表、相良 柚香(さがら ゆずか)だ。
 いずれも、組の代表としてふさわしい実力を持った猛者達だった。
「お前達、静かにしろ。今から校長息子のお話がある」
 教官はそうマイクで告げた。
 校長息子…
 校長先生ではなく校長息子…
 ここではそう呼ばれていた。
 東京女子の代表となった生徒は校長息子と義理の親子となる。
 生徒の方が親、母親である。
 その事からも代表に選ばれるとハイスクール・マザーと呼ばれるようになる。
 なぜ、女子高生をつかまえてそう呼ぶのか…
 それは、【母は強し】という信念の元にそう呼ばれるようになった。
 強い母の元で育った息子はやがて国を治める立派なリーダーになる。
 そう、時の総理が決めたのだ。
 ハイスクール・マザーはその優れた指導者を育てる女性を育てる場所なのだ。
 全国大会ではハイスクール・マザー達が戦い、負けたら、その学校の校長息子は学校を去らねばならなかった。
 負けた学校は翌年、また、新しい校長息子を選ぶという事になる。
 だから、息子を守るために、ハイスクール・マザー達は必死で戦う。
 全国一の学校となった時、その学校の校長息子は総理大臣としてポスト…次の一年間を国の代表として君臨することが出来るというものだった。
 ハイスクール・マザーは校長息子を守るために戦い、勝ち続けなくてはならないのだ。
 東京女子代表選抜戦はそのハイスクール・マザーを選ぶ戦いでもあるのだ。
 板橋組での戦いの様に七種類の勝負をランダムに選び、先に四勝した者が勝ちとなる。
 ちなみに全国大会はその倍近く、13種類の勝負で7勝先取で勝ちとなる。
 勝負は抽選により4ブロック6ないし5名ずつ振り分けられ、そこで総当たり戦を行い、一番勝率の良い生徒が準決勝、決勝のあるトーナメント戦へと進み優勝した者が晴れて東京女子代表、ハイスクール・マザーに選ばれるというものである。
 校長息子はまだ、幼い子供だった。
 校長息子が幼い場合は、ハイスクール・マザーが後見人となる。
 そのため、ファースト・レディーとも呼ばれるようになる。
「あの…、僕、学校を去りたくないです。だから頑張って…」
 その言葉に23組の代表達の胸はきゅーんとなった。


08 総当たり戦


 抽選の結果、板橋組の百合萌は葛飾組(かつしかぐみ)、豊島組(としまぐみ)、新宿組(しんじゅくぐみ)、荒川組(あらかわぐみ)、北組(きたぐみ)のいるDブロックになった。
 優勝候補の、新宿組と豊島組もいる激戦区となった。
 板橋組を必要以上に意識している北組もいる。
 組み合わせにより百合萌が戦う順番は
 第一戦目 対荒川組 代表者 石川 涼子(いしかわ りょうこ)
 第二戦目 対豊島組 代表者 小泉 友那(こいずみ ゆうな)
 第三戦目 対葛飾組 代表者 土橋 梓(どばし あずさ)
 第四戦目 対新宿組 代表者 佐伯 里穂(さえき りほ)
 第五戦目 対北組 代表者 森脇 梢(もりわき こずえ)
 という組み合わせになった。
 総当たり戦なのでDブロックの全員と戦う事になる。

「百合萌〜応援に来たわよ〜」
「板橋組の根性みせてやれ〜」
「負けんなよ〜」
「がんば〜」
「みんな…」
 ふと見ると板橋組の仲間が応援に来てくれた。
 応援というものは不思議なもので、自然と力が沸いて来る。
 分校にいた時には味わった事の無い感覚だった。
 今の百合萌には仲間との絆という強い力の源があった。
ハイスクール・マザーズ01話07 その勢いのまま、第一戦、対 石川 涼子戦(荒川組)にのぞんだ。

 第一種目。
 似顔絵描き。
 お互いを描き、3人の審判に判定してもらい、似ているかどうか、個性が出ているかどうか、色使いの三つ300点満点の内、高い点数をつけた方が勝ちという勝負。
 さすがに荒川組の代表者というだけあって手強かったが2点差で百合萌が取った。

 第二種目。
 綱引き。
 洋子から要はバランス、パワー、タイミングだと教わっていたので、これも上手く、力を引き出し、百合萌が連取した。

 第三種目。
 オリエンテーリング。
 校舎でメモに記された事を全てやって体育館に戻ってくるという競技。
 さすが、荒川組代表。
 簡単には勝たせてくれなかった。
 これは涼子が取った。

 第四種目。
 組み立て。
 用意された3つずつのプラモデルを早く組み立てた方が勝ち。
 色は塗らなくて良いが、審判が駄目と判断されたものは修正しなくてはならない。
 この勝負も涼子が取った。
 これで引き分け、お互い押しも引かれもしない一進一退の好勝負となった。
「…さすがに強い…」
「当たり前よ。なんたって向こうも代表者だもん。それより凄いじゃん、百合萌、荒川組の代表者にひけを取ってないよ」
「ありがと洋子。貴女のアドバイスが無かったら二種目目は落としてたわ」
「なんの。いっぱい特訓したからね。その効果があらわれたってことよ」
「一気に勝ちに行く」
「その意気よ。ファイト百合萌!」

 第五種目。
 あやとり。
 相手が作れなくした方が負け。
 途中危なかったが何とか百合萌が勝ちをもぎ取った。
 後、一勝すれば、勝ちとなる。

 第六種目。
 自転車。
 決められたコースを早く帰って来た方が勝ちという勝負。
 これは、本校にいる期間が短い百合萌にとっては不利な競技となり、涼子に勝ちを持っていかれた。
 これで、また引き分け。
 勝負は七種目目までもつれこんだ。

 第七種目。
 声。
 測定器で測り、より高い声を出した方が勝ち。
 これは、運が良かった。
 元々の声の質というのもあって百合萌が勝つことが出来た。
 ギリギリの戦いだったが、4対3で百合萌は涼子に勝利した。

「良い戦いだったわ」
 握手を求める涼子。
「ギリギリでした。こっちが負けてもおかしくない勝負でした」
 答える百合萌。
 熱い戦いをした二人に芽生える清々しい感覚だった。
 がっちりと握手をした。
「ありがと。この後の戦いも頑張ってね。私に勝った貴女が勝ち残ってくれると嬉しいわ。私もまだ、勝ちを諦めた訳じゃないけどね」
「はい。お互い頑張りましょう」

 百合萌は他の対戦を見て、他の組の代表者の実力を少しでも知ろうとした。

小泉 友那(豊島組)VS土橋 梓(葛飾組)と佐伯 里穂(新宿組)VS森脇 梢(北組)の試合を見たが、さすが優勝候補と言われるだけあって友那と里穂が相手に一種目も取らせない4種目先取のストレート勝ちを決めた。
 梓と梢も決して弱く無かった。
 相手が強すぎたのだ。
 この二人を倒さないとDブロックの代表にはなれないのかと戦慄した。
 次は友那との対戦。
 負ける訳にはいかなかった。


09 祝勝会


「百合萌〜まずは一勝目おめでとう〜」
「ありがとう。みんなも応援、ありがとう」
 初日の制服バトルも終わり、板橋組のメンバーは祝勝会を開いてくれた。
 もちろん、主役の百合萌は強制参加である。
「ねぇねぇ、百合萌ってさぁ〜分校で一番を取ったんだよね〜どうやって勝ち上がったのぉ〜」
「そ、それは…」
「なぁにぃ〜言いたくないのぉ〜白状なさい〜好きな人がいてその人のために勝ち続けたとか〜?」
「言っちゃえ、言っちゃえ。」
「…ううん…そういうんじゃない…私ね…キレるっていうか…意識を失うっていうか…確認されているだけで三段階あるらしいんだけど…」
「なぁに〜キレると強くなりますってか?そりゃ良い、選抜戦でもキレちゃえ、キレちゃえ〜」
「私ね…負けるのが怖いの…幼い頃、負けると父にたっぷりお仕置きされて…それがトラウマみたいになっちゃってて負けそうになると意識を失って…」
「はいはい、もうおしまい。誰だって言いたくない事はあるわ」
「ありがと、可憐」
「友達でしょ。困ったことがあったら相談に乗るわ」
「うん…」
「泣かないでよ。こっちも恥ずかしくなるでしょ」
「ゴメン、優しくされた事あまり無くてつい…」
「私の胸でお泣きってね〜」
「殴るわよ洋子〜」
「ごめ〜ん、冗談が過ぎたわ」
「ははは」
「あはは」
 楽しい一時はあっという間に過ぎ去っていった。
 明日も厳しい戦いがあるので、百合萌は早めに就寝した。
 翌日に行われる優勝候補の一角、小泉 友那(豊島組代表)との戦いのために…


10 優勝候補の実力


 翌日、選抜戦のそれぞれの第二戦、第三戦が行われる日となる日だった。
 第三戦目の土橋 梓(葛飾組代表)戦もあるのだが、午前中に優勝候補の一角、豊島組代表の小泉 友那戦がある…。
 始めから全力で行かなくてはならない。
 後の戦いの事など気にしていられなかった。
 まずは、昨日、ギリギリで勝てた荒川組代表 石川 涼子ともう一人の優勝候補新宿組代表 佐伯 里穂との勝負が行われた。
 勝負は里穂の4種目先取のストレート勝ちだった。
 昨日、あれだけ苦戦した涼子が里穂には手も足も出なかった。
 第三戦目では新宿組の佐伯 里穂と豊島組の小泉 友那の優勝候補同士の戦いが見られるという事で注目はDブロックに集まっていた。

「よし…昨日の疲れは残ってない…」
 百合萌は万全の態勢で対友那戦に臨むことが出来た。
 相手は優勝候補。
ハイスクール・マザーズ01話08 負けて当たり前。
 当たって砕けろの精神で挑む事にした。

 第一種目。
 縄跳び。
 三重跳びを何回出来るかという勝負だった。
 百合萌は34回目でつっかえてしまった。
 友那は…
 400回飛んで止めた。
 実力が違っていた。
 早くも一勝を取られてしまった。
 たいがい、第一、第二種目は百合萌が取っていたので、第一種目を落とすのは珍しい事だった。
(いや…負けたくない…)
 百合萌にトラウマスイッチが入ろうとしていた…。

 第二種目。
 水泳。
 50メートルのプールをクロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライの順番に泳いで先に200メートル泳ぎ切った方が勝ちというルール。
 ここでも友那は圧倒的力を示し、百合萌に30メートルの大差をつけて勝利した。
 ここでも友那のストレート勝ちかという雰囲気に包まれた。
「どんまい、まだ巻き返せるよ〜」
「落ち着いて行こう〜」
 応援の声が響くが百合萌には届いていないようだ。
(いや…嫌よ…)
 彼女は恐怖に顔がゆがみ出す。

 第三種目。
 間違い探し。
 二つのイラストを見比べて先に20カ所の間違いを当てた方が勝ちというルール。
 百合萌は気が動転していた。
 友那が20カ所目を見つけた時はまだ3つしか見つけていなかった。
 これで後がない。
 もう、一種目も落とせない。
「い、嫌…」
 ついに、百合萌から声が漏れる…
 負けるという事に恐怖を覚えているのだ。

 そして、運命の第四種目目。
 片付け。
 散らかった部屋を写真の通りに片付けていくと言う競技。
 ここでも圧倒的早さでてきぱきと片付けて行く友那。
 このまま友那の圧勝かと思われた時、ついに百合萌がキレた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁあっ」
 信じられないスピードで次々と物を片付けていく百合萌…。
 あっという間に友那を抜き去りゴールした。
 ザワザワ…
 周囲にどよめきが起こる。
 優勝候補の友那が一種目落としたからだ。
「やったー。勝ったー」
「やりー、百合萌が一種目取った〜」
 板橋組の応援団は大喜び。
 まるで、代表戦を取った見たいな喜びようだ。
 だが、四天王は表情が険しい…
「そんな…私が負けるなんて…」
 逆転負けをされた友那はショックを受けていた。
 まだ、一種目取られただけだが、動揺を隠せなかった。

 第五種目。
 走り幅跳び。
 より長く飛んだ方が勝ちというルール。
 動揺した友那はファウルを二回してしまい失格。
 百合萌が勝利した。
 百合萌の記録は友那のベストを軽く40センチも更新していた。
「う、嘘よ…」
 友那がさらに動揺する。

 第六種目。
 射的。
 少ない玉で全ての的を落とした方の勝ちというルール。
 百合萌は三角撃ちで半分の玉で全ての的を落として勝利した。
「いやったぁ〜これで同点だ〜」
「いけるよ〜百合萌〜」
 応援が加熱する。
 だが四天王は…
「不味いわね…」
「そうだね…」
 百合萌を心配した。

 第七種目が始まる前に可憐が百合萌の前に立ち
「棄権なさい。負けても良いから…」
 と言った。
 百合萌は虚ろな表情で…
「嫌よ…負けたくないもの…」
 とつぶやいた。
 一緒に来ていた洋子が
「何でよ。百合萌勝ってるのに…」
 と言った。
 すると可憐は…
「解らないの?あれは身体に大きな負担をしいているのよ。このままでいたら身体が持たないわ」
「えぇ、そうなの?…百合萌、もういい、やめろ!」
「やめない…私は勝つもの…」
 百合萌はゆらゆらと歩いていった。
 これが昨夜言っていたキレるという事なんだと板橋組の仲間は思った。

 第七種目。
 柔道。
 見事な体落としで友那を破った。
 ガックリ肩を落とす友那。
 最下位だった板橋組に負けたのがショックなのだ。
 百合萌は…そのまま倒れ、保健室に運ばれた。
 その日、百合萌の意識は戻らなかった。

 百合萌に負けたショックがでかかったのか友那は次の第三戦 里穂とのバトルにストレート負けをした。
 一日に二戦がある場合のみリザーバーが認められており、意識の戻らない百合萌の代わりに可憐が出て対梓(葛飾組)戦に勝利をおさめた。
 これにより、Dブロックで三連勝しているのは板橋組の百合萌と新宿組の里穂のみとなり明日の第四戦目が事実上の準決勝出場選手を決める大一番となる事になった。
 かたや優勝候補の佐伯 里穂、かたや優勝候補の一角を崩した今大会の台風の目、ダークホース、亀井 百合萌…
 この二人の戦いは全校生徒の注目を集めた。
 だが、百合萌は決戦当日になってやっと目を醒ました。
 心配する板橋組の仲間達。
「行かなきゃ…」
 身体にむち打って百合萌は第四戦に臨む。


11 激闘 里穂戦


「一晩泣いたらすっきりしたわ。私に勝ったんだから負けないでよね」
「…あなたは…」
「ふふ…頑張って」
 昨日の激戦で何とか勝てた小泉 友那が握手を求めてきた。
「ありがとう…」
 百合萌は力なく微笑む。
 やはり優勝候補は強かった。
 キレなければ完全に負けていた。
 今日も、優勝候補 新宿組の佐伯 里穂との戦いが待っている…。
 負けない…
 負ける訳にはいかない…
 強迫観念が百合萌を襲う…
 友那との会話が同じ優勝候補の里穂という強敵を前にして勝手に出力が上がって行ってしまった。
 第一種目目からキレモード全開となってしまった。
ハイスクール・マザーズ01話09
「よろしくね、百合萌さん。お互いベストを尽くしましょう」
「…えぇ…こちらこそ…」
 答えるのがやっとだった。

 第一種目。
 粘土細工。
 紙粘土で3つのアートを作り、審査員10人に10点ずつで合計100点満点で評価してもらうという勝負。
 最初からフルスロットルの百合萌はかなりの高得点で里穂から勝利をもぎ取った。
 負けはしたものの、里穂に友那の時のような焦りはない。
 冷静だった。
 さすがは優勝候補、昨日の戦いで友那を破った百合萌の実力なら自分が負けてもおかしくないと理解しているのだ。
 逆に、百合萌には余裕が無い。
 限界ギリギリでやっているのだ。
 このペースで最後まで持つ訳がない…。

 第二種目。
 折り紙。
 鶴を100羽、先に折った方が勝ち。
 これは接戦を里穂が制した。
 キレモードの百合萌と互角の勝負をする事からも里穂のポテンシャルの高さがうかがわれた。
 審査員の基準に達していない鶴が3羽出たのが百合萌の敗因だった。
 里穂は綺麗にミス無く折っている。

 第三種目。
 枕投げ。
 一定の時間、部屋の中で枕を投げ合う競技。
 枕は全部で30個使用された。
 タイムアップ時には里穂の陣地に13、百合萌の陣地に17の枕が残っていて、数では負けていたが、枕カバーを取ると一つ一つ得点が書いてあり、その合計ポイントで逆転し、百合萌が勝利をもぎ取った。

 第四種目。
 リンゴの皮むき競争。
 リンゴの皮を剥いて行ってより長い皮になった方が勝ちという競争。
 圧倒的に、里穂が長く切っていたが、あまりにも細く皮を切りすぎて、途中で皮が切れてしまい失格。
 長さこそ負けたが、最後まで皮を剥くことが出来た百合萌が勝った。
 これで、百合萌がリーチとなった。

 ここから里穂の怒濤の追い上げがある…。
 第五種目。
 聴力競争。
 ヘッドフォンをして中から聞こえるより小さい音を聞き分けた方が勝ちという競争。
 ヘッドフォンからは【右・左・左・上・右・下・前】の様に、上下と前後左右の六方向の言葉が七カ所言われる。
 それを正確に言えたら聞き取れたという事になる。
 勘でやって正解でもかまわない。
 これは里穂が取った。

 第六種目。
 演奏勝負。
 エレキギター、フルート、ヴァイオリン、ティンパニ、カスタネット、シンバル、ピアニカ、ハーモニカ、マラカス、ウクレレ、二胡、三線、コントラバス、鈴、和太鼓、鉄琴、木琴、リコーダー、タンバリン、琴の20の楽器から順番に相手が演奏する楽器を指名していくというルール。
 サドンデス方式で、自分が演奏できて相手が間違えたら勝ちというルール。
 これは殆ど全ての楽器を演奏したことがあるという里穂が勝った。
 これでイーブンに戻した。

 第七種目。
 後ろ走り100メートル走。
 後ろ向きに走り、先にゴールした方が勝ちというルール。
 これは大会始まって以来の初めての引き分けだった。
 全くの同着ゴールだった。

 この先は新たに競技を選び、先に勝った方が勝利者、ウィナーとなる。
 第八種目。
 感想文対決。
 一つの短編映画を見て感想文を書く。
 ただし、400字原稿で丁度一枚分、400字ぴったりに近い方が勝ちというルール。
 両者全く同時に感想文を書き終え、文字数も400字ぴったりだった。
 この勝負でも決着はつかなかった。

 第九種目。
 平均台競争。
 平均台を縦に7つ並べ、それを順番に渡っていき早くゴールした方が勝ちだった。
 これも全くの同着ゴールだった。
「おぉ…」
 三回連続の引き分けにどよめきが起こる。
 それだけ、白熱した勝負だった。
「はぁはぁぜぇぜぇぜぇ…」
 百合萌は既に肩で息をしている限界が近い。
 次の勝負で勝たなければ勝てないだろう…。

 第十種目。
 カラオケ対決。
 高い点数をつけた方が勝ちではなく、始めに予想点数を申告し、申告した点数に近ければ勝ちというルール。
 3曲ずつ歌い、その合計点数が申告した点数に近ければ勝ちという勝負だった。
 体力に余裕のある里穂は歌の上手さを披露したが、得点がなかなか申告した点数とはあわなかった。
 逆に、息も絶え絶えの百合萌は始めから低い点数を予想。
 その作戦が功を奏し、誤差7点で見事に勝利をおさめた。

 結果、激闘を制し、百合萌が勝利をおさめたのだった。
 だが、午後には北組代表、森脇 梢との戦いが残っている…。
 百合萌にその体力は残っていない…。
 そうなると、勝ち点4ずつで新宿組の佐伯 里穂との再戦をすることになってしまう可能性がある…。
 リザーバーは東京女子代表戦では一度だけしか認められていない。
 昨日、可憐が出てしまったから、もう使えないのだ。
 おそらくそうなったら、Dブロック代表は里穂になるだろう。
 疲れ切っている百合萌は次を戦う力は残ってなどいない…

 案の定、午後の試合で里穂は葛飾組の梓を下し、勝ち点4にした。
 板橋組大ピンチだった。
 だが…。

「北組、棄権します…」
 対戦相手の森脇 梢が棄権を申し出た。
 梢は何処も悪くない。
 では、何故?
「ど、どういう事…?」
「…優勝候補を二人も破った人間の勝ち残りに水を差す程、私は野暮じゃないって事よ。おめでとう、Dブロック代表はあんたのものよ」
ハイスクール・マザーズ01話10 そういうと梢は北組の制服を脱いで下着姿になった。
 これは相手に負けを認めたという事だった。
 梢だけでは無かった。
 涼子も友那も梓も里穂もそれぞれの組の制服を脱いで下着姿となり、制服を百合萌に渡した。

 パチパチパチパチ…
「ブラボー!良かったぞ〜」
「素晴らしい戦いだった」
 拍手と共に声援が飛ぶ。
 みんな百合萌の決勝トーナメント戦への出場が決定した。

「決勝トーナメントに残った4人を発表します…まずは、たった今、優勝候補2人を破って勝ち残った板橋組代表 亀井 百合萌ー!!」
 パチパチパチパチ
 拍手喝采だった。
「続きまして、同じく優勝候補の港組(みなとぐみ)代表 芹沢 一恵(せりざわ かずえ)を破って残った台東組(たいとうぐみ)代表 皆瀬 優樹(みなせ ゆうき)ー」
 百合萌と同じダークホースが勝ち上がったようだった。
「続きまして、圧倒的な力で代表の座を勝ち取った優勝候補の一角、文京組(ぶんきょうぐみ)代表、相良 柚香(さがら ゆずか)ー」
 やはり、優勝候補も勝ち残っていた。
「最後は優勝候補筆頭、東京女子の絶対王者 世田谷組(せたがやぐみ)代表、新庄 絢香(しんじょう あやか)ー」
 やはり、優勝候補筆頭というだけあって絢香の存在感は半端では無かった。
 そして、彼女には百合萌が倒した里穂の父と絢香の母が姉弟である従姉妹同士、板橋組主席の千亜紀の母と絢香の父が兄妹で従姉妹同士という因縁もあった。

 百合萌、優樹、柚香、絢香…この四人の中から東京女子の代表は選ばれる。
 百合萌の…彼女の戦いはまだ続く。


登場キャラクター説明

001 亀井 百合萌(かめい ゆりも)

亀井 百合萌 この物語の主人公。
 東京女子分校東久留米組から東京女子板橋組に転入してきた少女。
 興味無いように装っているが、東京女子代表になることに執念を燃やしている。
 追い詰められるとキレてしまう癖がある。
 主席にこそなれなかったが板橋組代表として東京女子代表戦に出場する。








002 飯島 洋子(いいじま ようこ)

飯島洋子 板橋組第五席の少女。
 力自慢。
 転入してきた百合萌(ゆりも)に勝負を挑む。
 その後は百合萌のよき理解者になる。
 主席から第四席までが代表戦に興味を示さないために、板橋組代表として代表戦に出ていたが、結果は23組中最下位という結果になっている。









003 藤堂 可憐(とうどう かれん)

藤堂可憐 板橋組第二席の少女。
 クールな性格。
 東京女子代表戦では、倒れた百合萌の代わりに戦い、勝つ。
 板橋組のリーダー的立場。












004 河原 千亜紀(かわはら ちあき)

河原千亜紀 板橋組第一席(主席)の少女。
 その力は北組代表の梢に勝つ程の力を秘めている。
 代表戦には興味がなく、板橋組は第五席に代表を譲っている。













005 酒井 清美(さかい きよみ)

酒井清美 板橋組第三席の少女。
 ボーイッシュ。
 百合萌(ゆりも)との勝負には負けたが、圧倒的なポテンシャルを示す。
 第四席の尚美(なおみ)と仲が良い。
 











006 生方 尚美(うぶかた なおみ)

生方尚美 板橋組第四席の少女。
 お嬢様風。
 百合萌(ゆりも)との勝負には負けたが、まともに戦っていたら、勝負は解らなかった程の実力者。
 第三席の清美(きよみ)と仲が良い。











007 風間 静香(かざま しずか)

風間静香 練馬組代表の少女。
 人当たりの良い性格。














008 森脇 梢(もりわき こずえ)

森脇梢 北組代表の少女。
 かつて、板橋組の千亜紀(ちあき)に負けた事があり、その雪辱を晴らしたいが肝心の千亜紀自身が代表戦に出てこない為、必要以上に板橋組に対し、ライバル心を持っている。
 ボロボロの状態の百合萌に試合で楽勝出来る状態だったが、彼女のプライドが許さず、勝ちを百合萌に譲るという心意気もみせる。










009 相良 柚香(さがら ゆずか)

相良柚香 文京組代表の少女。
 優勝候補の一角。
 見事、ベスト4まで勝ち上がる。













010 石川 涼子(いしかわ りょうこ)

石川涼子 荒川組代表の少女。
 百合萌と互角の勝負をしたが、惜しくも敗れ去る。














011 小泉 友那(こいずみ ゆうな)

小泉友那 豊島組代表の少女。
 優勝候補の一角。
 百合萌を追い詰めたが、キレた百合萌に動揺し、敗れ去る。













012 土橋 梓(どばし あずさ)

土橋梓 葛飾組代表の少女。
 百合萌達のグループで総当たり戦でぶつかる。














013 佐伯 里穂(さえき りほ)

佐伯里穂 新宿組代表の少女。
 優勝候補の一角。
 同じ優勝候補の友那(ゆうな)を破るも、百合萌に敗れる。
 勝負は延長戦までもつれ込んだ。












014 芹沢 一恵(せりざわ かずえ)

芹沢一恵 港組代表の少女。
 優勝候補の一角だったが、ダークホースの台東組という伏兵に敗れ去り、ベスト4進出を逃す。













015 皆瀬 優樹(みなせ ゆうき)

皆瀬優樹 台東組代表の少女。
 百合萌同様、今大会のダークホース。
 優勝候補の一恵(かずえ)を破り、ベスト4進出を決める。













016 新庄 絢香(しんじょう あやか)

新庄絢香 世田谷組代表の少女。
 優勝最有力候補で、かつて全国で最強とされた東京女子復活に彼女の力が大きく期待されている。
 全く、危なげ無く勝ち進み、ベスト4進出を果たしている。
 千亜紀の母と彼女の父が兄妹で従姉妹同士、里穂の父と彼女の母が姉弟で従姉妹同士という間柄でもある。